【書評】『静かに、ねぇ、静かに』
『静かに、ねぇ、静かに』-本谷有希子著
世界中のあらゆる場所をくまなく探したとして、果たして完全に1人になれる場所など存在するのだろうか。
出張で大阪に滞在している今、ふとそんなことを考えてみる。
食事に外へ出ればたくさんの人々で賑わう繁華街があることはもちろん、ホテルに1人でいたとしても完全に1人になることは難しい。
TwitterやらInstagramやらFacebookやらへアクセスし、食べた料理の写真を載せたり、今の気持ちを140文字以内でつぶやいたり、友達のコラム記事を追いかけてコメントなんぞをして繋がりを確認したりしちゃう。
物理的距離は離れていれど、息を吸うかのように誰とでもコミュニケーションが取れるこの時代では、完全に1人になれる時間なんてあるのかぁとパソコンに向かいながら淀屋橋のホテルで独り考える。
"1人の時間がないとムリ"とか言うめんどくさいタイプの私でも、振り返って考えてみればスマホの電源を切って1日中いじらずに過ごした日なんて、おそらく中学校を卒業して以来1日たりとも存在しない。
(中学生時代はスマホがまだほとんど普及していなかったから持ってなかった)
きっと今の小学生や中学生はさらに速い段階からスマホを持っているだろうから、より一層"1人でいられる時間"ってのは減っていくんだろうなぁ。
それで良いのか?うーん...それで良いのか。
時代の流れと技術の進化に逆らえない。
悲しいかな"孤独を愛する"キザな人間には生きづらい世の中になっている。
ふとそんなことを思ったのは、今回紹介する『静かに、ねぇ、静かに』という本谷有希子さんの"SNS"をテーマにした小説だからである。
題名の頭文字をアルファベットにするとSNSとなる洒落た細工もなされていて、本書を棚指しされている書店の本棚から抜きだした。
本書は3本の小説からなる短編集で、タイトルとあらすじは各々以下の通り。
・ 「本当の旅」
SNSでの自分が本当の自分であるかのように生活をする男女3人のグループの海外旅行の話。目の前に友達がいるにも関わらずLINEで会話をしたり、まずい料理を食べても美味しそうに写真が撮れていてInstagramに投稿できればOK。
そんな3人がたどり着く旅の終着点は....。
・「奥さん、犬は大丈夫だよね?」
インターネットショッピング依存症である主人公が旦那の同僚夫婦と行くキャンピングカー旅行の話。何か買う物がないと落ち着かない主人公は、携帯を没収されてるにも関わらず、旅の途中でも何らかの方法でネットショッピングをしてしまう。
その日の夜、それに気づいた旦那は停車中のキャンピングカーから外へ出てしまう。
同僚夫婦が心配して、なかなか帰ってこない旦那を探しに行くが.....。
・「でぶのハッピーバースデー」
無職で見た目が醜い夫婦の話。夫婦揃って同じ場所でアルバイトを始めるが、その容姿へのコンプレックスから改めてうまく行かない。店での悪行を動画におさめてネットにアップしている。どんなにダメでも前に進んでいく夫婦の友情物語。
(正直この話に関してはよくわからなかった…)
どれもインターネットに支配されている人たちの世界を奇妙に描いた作品ばかり。
読んでて気持ち悪さを感じる反面、グイグイ読んでしまう感覚が癖になる一冊。
インターネットという宗教
「信じるモノは救われる」ってのは新興宗教の謳い文句の最たるものだったりする。
駅前では今日もニコニコ微笑ましい笑顔を浮かべながら手を振っている信者の方々がいらっしゃって、自分には縁のない世界だなぁなんて思いながら毎日目の前を通り過ぎて家路につく。
『静かに、ねぇ、静かに』を読了した今、見えている世界が少し変わった様な気がする。
決して駅前で手を振っている人たちだけが何かの宗教活動に熱心になっているわけではなく、普通に生活している私もインターネットという宗教に属しているのではないかということだ。
友達と一緒に居たってスマホで話をしたり、Instagramへ写真を投稿するために旅行をしたり、リアルタイムで気持ちを呟ける。
デジタルネイティブ世代と呼ばれる私たちは、物心ついたときから現実とは"違う世界"を片手に収まるサイズで持っている。
さらに技術が発展していけば、"違う世界"の存在は現実世界よりも存在が大きくなるかもしれない。(VRしかりね)
自分の住みたい世界を簡単に選べるようになるかもしれないなぁ。
友達と居る時の顔。口から出る言葉。心と頭で考えている思考。
どっちが本当の自分なんだろう。
そんなこと考えると夜しか眠れなくなりそうだし今日はこんなとこにしておこう。
少なくとも言いたいことは言えるそんな世の中で生きたいなぁ。
ポイズン。。。。。
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