【書評】『小気味好いテンポでボヤキ倒し!?食事のあれこれ考えたくなる一冊』
メロンの丸かじり-東海林さだお著
最近少しハマってるものがあるんです、私。
なんだと思います?
講談なるものなんですけどね。最近話題の。
ところで講談ってなんだと思います?
落語に良く似たアレですよ。
落語とよく間違われる講談ですが、落語と講談の違いって"事実かそうでないかの違い"だそうです。(私も初めて知りました)
落語は歴史のフィクションで講談は歴史のノンフィクション。
言わば講釈師は歴史の語り手と呼べるような芸人さんなわけです。
そんな講釈師の人口は落語家さんの10分の1だそうです。
若い人が全然門を叩かない世界みたいですよ。
そしてそんな希少価値の高い若手講談師の代表格が"神田松之丞"さん!!
これがもう凄いのなんの!!
何せ話の"テンポ"、抑揚のつけ方、そして半端じゃない迫力!!
YouTubeの音声のみですが圧倒させられてしまっている毎日です。
きっと生で見たら熱気を感じとることができて鳥肌モノなんだろうなぁ。
いつか行ってみたいなぁ。
(リンクを貼っておくので興味ある人は聞いてみてね)
この"テンポ"の良さってのはどの分野にも必要なわけで、話にメリハリがない人って一緒にいてどうも楽しくないじゃないですか。
コミュニケーション系の自己啓発本でもその辺のこと意識的に書かれていたりしますよね。コミュ力戦国時代の昨今、みんなの興味関心のタネなわけですな。
そして本もまた例外ではないわけで。
"テンポ"が悪い本てのは読んでて疲れますし、なかなか先に進まない。
やけに目が疲れたり次のページを開く一枚が重く感じたりする。
ゆっくりでもはやくでも、著者がどんな"テンポ"で進んでいってほしいのかが意識して書かれていると「あゝ、気持ちいい~」と北島康介もビックリするくらい心地良くなっちゃう。
じゃあ今回紹介する本作、"メロンの丸かじり"はどうなのよって話になる。
これがね。
抜群に良いの。
日々の食事や食べ物に関するエッセイ集なのだが、一作一作の"テンポ"がとても気持ちがいい。笑って終わる話ばかりではなく、少し考えさせられる話もある。
全話にしっかりオチがついているのでポンポン読んでしまう。
そんな本作の魅力を今回は伝えたい!!
食べものの視点から考えよう
日々の食事や食べ物にまつわることを著者の独自の切り口で綴っているんですね。
他愛もないことを素敵なお話に変えてしまっているんですよ。
著者の特徴として感じ取れたのが食べものの視点からエッセイを書くことです。
"○○を食べてこう思った"であったりとか"○○にはこれが欠かせないのだ"とか、食事をする側の視点で書くことが多いと思うんです、こうゆのって。
でも東海林さだおさんのエッセイは違う。
食べもの同士の会話を妄想して書いちゃう。
それがおかしくってクスリと笑っちゃう。
その食べものに憑依したかのようになりきって話しちゃう。
もう楽しくってどんどん進んじゃう。
そんなことを繰り返してると全部読み終わっちゃう。
かっぱえびせんもビックリするくらいやめられないとまらない。
食べものの視点から考える。
そこから世界を見てみる。(大げさ)
だから面白い。(伝わるかな?)
うまく話せないのでエッセイ集から特にお気に入りのエピソード2選を紹介するね。
これを読めばきっと私が言いたいことが伝わるはず!!
レッツゴー!!
お勧めエピソード2選
①エノキの家計
エノキの視点からキノコ界のヒエラルキーを表した一作。
貧乏暇なしな大家族がエノキで、他のキノコは独り立ちして一本で生きてる。
一本で主役を張れる。
確かに鍋の中に一本だけエノキが浮いてたらさびしい気持ちになりますよね(笑)
一本じゃ生きてけないから協力して生きていこうとする。
なんだか泣けてくるじゃありませんか。
そんな風に思ったことなかったですよ、私。エノキが大家族で頑張ってるだなんて。
エノキは密集してて気持ち悪いくらいの感覚でしたよ?
上からのぞいたら気持ち悪いじゃないですか、エノキ。
猪木さんもボンバイエするくらい弱い者同士で密集して頑張ってるエノキがメインで活躍できる料理を考えたくなりましたね。
②苦境に立つ厚揚げ
厚揚げの不憫さを綴った本作。
未だかつて厚揚げを「気の毒」と思う人を僕はあった事がない。
そもそも人間に対してだってあまり抱く感情ではない。
小説やドラマの中で、
「あそこの旦那さんまーた浮気ですって」
「もう、お気の毒ねぇ」
くらいなものである。
そんな感情をお豆腐の周りに衣をコーティングした固形物に抱くのだ。
筆者はどうかしている。
だがそこが癖になる。
本作で厚揚げを兄弟に見立てているところがとても気に入っている。
それぞれの特徴をうまく表現しているんだけどある意味か見応えのない感じがなんともステキだ。(豆腐の様にのどごし滑らかと言ったところか)
そんな機微が特徴的で、本作の好きな作品に抜擢した。
厚揚げってなきゃいけない。ってこともない食材だと思う。
けれどこの世から消えると切なくなる。
スーパーや豆腐屋さんから厚揚げが消えてなくなり、おでんの鍋からも姿を消した光景を考えるとなんだか侘しい気持ちになりそうだ。
特に辛いのは居酒屋のメニューから喪失したときである。
私なんかはその場で揚げる厚揚げが大好きである。
カリカリの衣で中はトロっとした厚揚げにダシ醤油なんかたらして生姜とネギなんかと一緒に食して日本酒で流し込む。
こんな幸せな体験ができなくなるのはごめんこうむりたい。
どんなに「気の毒」でも厚揚げには頑張ってもらわなければ困る!
........なんて意気揚々と思ってしまったお話でした。
こんな話が他にもたーーーーーっくさんある楽しい一冊だからぜひ読んでみてね!
(最後にリンク貼っておききます)
アレコレ考えて食べる楽しみ
本作を通じてやってみたい事ができた。
食事の時にアレコレ考えてみることだ。
どこで、どんな人が、どんな気持ちでこの食材を作ったのか。
はたまたこの魚はこの広い海でいかなる冒険をしてこの食卓にたどり着いたのか。
食べられるものの気持ちも想像してみる。
食べられる側にも感情を持たせてみる。
いつもより感謝して食事と向き合えるのではなかろうか。
当たり前の食事に色をつけ、物語を作って食べる楽しみ。
きっと人間にしかできない娯楽だと僕は思う。
サルなんかじゃ到底できない技巧である。
アレコレ考えて食べる楽しみを、一緒に分かち合えることができる人がいればなおよい。
話が弾み、より一層食事がおいしくなることでしょう。
そんな話をしたくなるようなのが今回お話した”メロンの丸かじり”。
想像力を膨らませて食事を楽しみたくなる一冊でした!!
(丸かじりシリーズは他にもあるのでぜひ読んでみてね)
今日の私の夕飯は鯖の塩焼き。
この鯖はどんな冒険をしてきただろう。