【書評】『発酵食品ブーム到来!?意外と知らない発酵についてのトビラが開ける一冊』
発酵文化人類学
~微生物から見た社会のカタチ~-小倉ヒラク著
先週あたりですかね、営業で千駄木にいたんですよ、私。
私ね、いつもは真面目なもんですから用事が済んだらすぐ会社に帰るんですよ。
でもね、たまにはまっすぐ帰らずにぶらつきたいときもあるわけです。
ともあれ厳しい暑さが続く9月ではただブラブラしていてもつらいだけ。
私、悩みました。
悩みました。
悩んだ末に。
思ったのです。
そうだ、本屋へ行こう。
以前より気になっていた往来堂書店が近くにあるのを思い出し、午後の日差しを感じながら闊歩して向かったのです。
入店して一発目に飛び込んでましたのが今日の一冊。
発酵やら微生物やらって普段触れない分野なんだけど、装丁に惹かれてレジに運びました。
さて、そんな『発酵文化人類学~微生物から見た社会のカタチ~』-小倉ヒラク著を今日はご紹介いたします。
筆者のプロフィール
今回は学術書的なエッセイですので、作者の紹介もしておきたいと思います。
- 名前:小倉ヒラクさん
- 年齢:35歳
- 職業:発酵デザイナー
元々はアートディレクターとしてご活躍されていた小倉ヒラクさん。
(装丁に惹かれるのもうなずける)
発酵物ができる仕組みを趣味で研究し始め、デザイナーとして発酵醸造メーカーのアートディレクションやアニメ・絵本等の製作をてがけているうちに微生物の世界にどっぷりハマり、東京農大の研究生を経て本当に発酵・微生物学の専門家になってしまっただいぶ変態な方です。
経歴もさることながら、活動もとてもユニーク!!
「手前味噌」のワークショップを行ったり、出版した本作を全国で巡業するなど行動派なヒラクさん!!
(ちなみに「手前味噌」とは自家製の味噌って意味なんですよ)
そんな「手前味噌ワークショップ」を全国に広げるため、こんな歌まで作っちゃってるんです!!
癖になっちゃうんでぜひ聞いてみてくださいな。
「手前みそのうた」いいですよ~。
ヒラクさんの話をするととても長くなりそうなのでここいらでやめときます。
もっと知りたくなった方はリンクを貼っとくので遊びに行ってみてください!
さて、そんな彼が書いている本作。
どんな本かなんとなく想像できますよね(笑)
あらすじ
前述したような変態のヒラクさんが書いていることもあり、かしこまったタイトルになってるけど、それとは裏腹に発酵食品やお酒のルーツを探りつつ文化人類学の観点から発酵×人間の関係を紐解いていくポップな学術エッセイです!
発酵の歴史、発酵にまつわる伝説、土地と菌の関係、ヒトと菌の関係、そして発酵の未来とヒトの未来へとつながります。
どういった経緯で発酵文化がうまれ、どのようにヒトと関わってきたのか。
西洋と東洋の発酵文化の違いはなんなのか。
また、日本特有の発酵文化は如何にして発展してきたのか。
そして今後どんな風に進化を遂げていくのか。
そんな話が多角的な見方から事細かに書かれています!!
「発酵っておもしろいなぁ~」なんて日本酒片手につぶやきたくなることでしょう。
(ここだけの話、酒飲みの人は必読ですよ)
さて、かなり内容がたっぷりだったので、印象に残った章を一つ取り上げてお話いたします。
制限から生まれる多様性
本書第三章の"制限から生まれる多様性~マイナスをプラスに醸すデザイン術~"がとても印象に残ったので、読みごたえある本書の中からピックアップして紹介したいと思います。(とは言いつつ話していくのは5章の事。3章をふまえて印象に残ったエピソードってことでご勘弁を)
日本は海に囲まれた島国であることは周知の事実。
つまり様々な食品やモノ、技術などは海外からやってきたんですよ。(当たり前ですが)
そして発酵文化も漏れなくその一つ。
もちろん日本独自のものもあるんだけど、この章で取扱われているのは海を渡って日本へやってきたもの。
なんだと思います?
…
…
…
ワインなんですよ!
…
…
…
この章は、諸外国でのワイン文化や製造方法を軸に、今最も注目されている甲州ワインを生産されている職人さんにスポットライトを当てた話。
欧州などはワインのためにブドウから育てる。(初知りでした)
だから農家と職人は兼任のところがほとんど!(これもビックリ)
その結果おいしいワインができる!
加えて宗教的な側面から見ても特別な意味を持つスペシャルな飲み物なわけ!
もうワインは生活の一部であり、欠かせないものなんです。
一方初期の日本ワイン。
ブドウがたくさん余ったから砂糖入れて発酵させちゃおうみたいなノリで作ったものなんですって!
それ故この頃のワインはどちらかと言うと"葡萄酒"だったわけよ!
どちらかというとブドウ農家の副産物みたいな扱いだったわけね。
だから正直日本酒などと違って、お酒としての位はとても低かった。
さらに気候の違いで、ワインに適切なブドウを育てることができない日本では良質なワインが作れず、ワインを飲む文化が根付かなかったんですって。
それに革新を起こしたのが甲州ワイン。
日本独自の気候を生かして育んだワインに不向きなブドウをあえて使って、独特な風味や渋みを残して、個性として売り出しのです!
ネガティブな要素しかなかった日本ワインに新たな価値をデザインしてイノベーションを起こした!
まさに制限からうまれる多様性、いや可能性!!
その結果どうです?
今や甲州ワインは世界に名を轟かせる逸品になってるじゃあありませんか!!
(詳しくは本書を手に取って第3章と第5章を読んでね)
なんでここが一番印象に残ったかと言いますとね、どんな仕事にも置き換えられるなぁって思ったからなんです。
例えば上司のせいで仕事が進まなかったり、得意先とうまく行かなかったりするじゃないですか。
人間自分が一番可愛いもんです、すぐ人のせいにしたがる。
(私なんか特にそう)
でもそんな中でも考えて良い方向に持っていく事が大切なんだなって感じたんですよ。
もちろん全てがうまく行く事なんて滅多にないです。
甲州ワインだって紆余曲折あって今の形になったのですしね。
その場の環境に文句をたれることなく、"どうしたらより良いものができるのか""そのために何をすべきなのか"、常にそんなことを考えていった先に結果がある。
本書を読んでそんな風に考えちゃいましたよ。
そして何かに行き詰ったときはこう思ってみるのもありかなぁなんて思ったの。
何かに悩んだときは視点を変えて新たな価値を考える。
そしてその価値を自分が誰よりも信じてあげる。
そんな強い気持ちで生きてみたいなぁなんて甲州ワインから感じました(笑)
これはもう、ブームなんかじゃない。
文化だ! 文化なのだ!
甲州ワインの話やら発酵食品を支えている人の話は本書を手にして詳しく味わっていただくとして、ここだけの話、発酵食品のブームは来てます。
かなり来てます。
(健康食品業界にいる僕が言うんだから間違いない)
ドラッグストアでも酵素入の食品やサプリなどを見かけることも多いのではないでしょうか??
実際業界のメーカーの人に聞いても売行は好調みたいです。
(具体的な証拠はないけどね。ここだけの話ね)
ただ、本書を通じて"発酵食品はブームなんかじゃない!文化なんだ!"って強く思ったわけなのですよ。
味噌汁も、日本酒も、ワインも、漬物も、もう全部当たり前のように口にできる。
これは先人が生きるために培った知恵であり、その恩恵を現代に生きる我々がありがたく受け取ることができる。
今でもその技術に磨きをかけ、さらなる進化を試みる職人さんがいる。
発酵や微生物に関連する食品は現在間違いなくブームになっている。
しかしその一方では伝統を引き継ぎ、さらに自分の色を出そうと創意工夫をやめない職人さんがいる。
小倉ヒラクさんみたいに、味噌蔵と協力して"手前味噌"のワークショップを開催して一般の方に味噌作りを根付かせようとしている人もいる。
こんなムーブメントを起こせる自由な発酵食品の世界は、なんと興味深くおもしろいんだろう。
だからこそ声を大にしていいたい。
間違いなく発酵食品は"ブームなんかじゃない。文化だ!"
皆さんも本書を読んで、奥深き発行の世界を覗いてみてはいかがですか?